2024.01.11
COLUMN
コラム
登場人物 金谷知明(かなたに ともあき)さん
岡山県岡山市出身。フランス料理を中心に様々な飲食店で修行を積み、2005年から14年間岡山のフランス料理店でシェフを務めた生粋の料理人。2020年6月より岡山市錦町のハレまち通り沿いにあるベーカリー「PUBLIC」のシェフとしてパンのレシピ開発や製造を担う。
JR岡山駅から約徒歩10分のハレまち通りに面した場所に、フランス料理の経験を活かしたシェフが腕を振うベーカリー「PUBLIC」があります。2020年6月のオープン以来、多くのパン好きが足を運ぶ人気店です。
店内のショーケースには、パンひとつでランチを食べたような満足感が得られるボリューミーなサンドイッチやホットドックなど惣菜パンに、バケットやカンパーニュ、クロワッサンなど定番のパン、旬のフルーツがたっぷりと使われたスイーツパンまで、いつ訪れてもパン好きの心をくすぐるものばかり。オリジナリティ溢れるパンがずらりと並びます。
「どれにしようかな」とワクワクしてパンを選べる豊富なラインアップの源にはフレンチの料理人だったシェフの、尽きない探究心がありました。
おいしいパンはフランス料理の相棒だった
「PUBLIC」のパンを手がける金谷さんは小さい頃から料理が好きでよくレシピ本を見ながらひとりで料理をつくっていたそう。
大人になっても料理への興味は深まり、イタリアンや鉄板フレンチなどの飲食店で修行。様々な料理を勉強していく中で、地域によって個性が出るフランス料理の面白さに目覚めていきます。
金谷さん「フランスは地域によってつくる料理が全然違うんですよ。ドイツ、スペイン、イタリアなど隣接する国の食文化の影響を受けていて、エリアによって料理の地域色が色濃いところに惹かれました。古くからの歴史を持つクラシックなスタイルもフランス料理の好きなところです。
そして、フランス料理にとって「バケット」はとても重要な存在です。さまざまな料理の相棒となるバケットをどうやったらおいしくできるかを知るため、ベーカリーで修行をしました」
金谷さんがフランス料理を極めていく中でおいしいパンをつくれるようになりたいと思うようになるのは自然な流れだったといいます。
より自由度があるパンづくりの道へ
そして転機が訪れます。2018年に長年勤めていたフランス料理店が閉店することに。「これから何がやりたいか」を考えた金谷さんは、パンづくりに辿り着きました。
金谷さん「次はフランス料理の枠にとらわれず、もっと自由に料理を表現できることに挑戦してみたいと考えていたんです。
ちょうどそのとき、高校時代の友人に『空き店舗があるから何か一緒にやらないか』と声をかけてもらいました。これまでの料理人としての経験と、パンを組み合わせたら絶対に面白いものができると思い、ベーカリーに挑戦することにしました」
同時期に、ケーキ屋やフランス料理のシェフとしての誘いもあったそう。そんな中で新規でベーカリーになる道を選んだのは、「純粋にパンが好きだったから」と内に秘めた思いを教えてくれました。
金谷さんがパンの製造を担い、店舗の経営面はHITPLUSがオーナーというかたちで「PUBLIC」のオープンが決まります。オーナーとシェフが別であるこの営業形態は金谷さんの思いを後押ししているのだとか。
金谷さん「僕は自由に好きなパンをつくりたいだけなんですよね。経営の経験や知識もなかったため、場があり、オーナーがいてくれることで、製造に集中できる環境は助かっています」
飲食店の開業には飲食経験だけでなく、資金や人材の確保、細かい申請手続き、店舗のマネジメントなど多くのハードルがあります。これまで料理一筋だった金谷さんにとって、オープン時に知識のない業務が発生せず、パンの製造に専念できたことは最善の選択だったともいえるでしょう。
一筋縄ではいかない、だからパンは面白い
オープンにあたって金谷さんが思い描いたのは、長年の料理経験を活かしたバラエティ豊かなベーカリー。「PUBLIC」のオープン前後、メニュー開発に取り組みますが、最初は試行錯誤の日々が続きました。
金谷さん「まず『PUBLIC』は、サンドイッチや惣菜パンを目玉にすることを決めていました。けれど、具材とパンをただ合わせてもイメージ通りの味に仕上がりにならないのが難しいところであり、面白いところです。
具材がおいしいだけではダメですし、具材とパンとのバランスをつかむまでが大変でした。また小麦は塩分を抑制する特徴があるため、パン全体の味がフランス料理の感覚では塩味が薄くなってしまい、塩分の調整にも苦戦しました」
またパンそのものの生地づくりにかなりの時間を割いたそう。中でも完成までに時間がかかったのがクロワッサン。何度も試作を重ねて、店頭に並べることができたのはオープンしてから3、4ヶ月経った頃でした。
金谷さん「開店当初、お客さまに『なんでクロワッサンがないの?』と尋ねられることもありました。具材と組み合わせたデニッシュ生地としては合格点だったものの、生地が勝負のシンプルなクロワッサンを完成させるまでの道のりは長かったです。現在も『もっと層を深くしてサクサクの食感にできるのでは?』と考えています」
生地のおいしさは「PUBLIC」の人気の理由のひとつです。2023年の7月からは岡山県産の小麦「せときらら」などの単一品種を仕入れ、パンの種類ごとに配合を変えているのだとか。
金谷さん「一般的な小麦粉はパンがつくりやすいように数種類の小麦がブレンドされているんです。単一品種の小麦粉はそれぞれ個性が違うので、生地の特徴にあわせて少しずつ配合を変えるのが楽しいです」
“推し生地”はやはりバケット。金谷さんの自信作です。
金谷さん「バケットは他の生地に比べてとても繊細です。小麦粉、塩、水、イーストと材料がシンプルだからこそ、おいしいものにできるよう気を遣っています」
そして、いまもなお金谷さんのパンへの探究心は尽きません。PUBLICのパンに完成はなく、日々美味しさが増しているベーカリーとも言えます。
シェフのアイデアが詰まったPUBLICが岡山から全国で愛されるベーカリーへ
2020年6月「PUBLIC」がオープン。ショーケースには金谷さんがゼロからつくったアイデア溢れるパンがずらりと並びます。今ではその数50種類ほど。金谷さんの溢れるアイデアが多くのパンを生み出し続けています。
金谷さん「おいしそうな料理に出会うと、どうパンに落とし込めるかなと自然と考えています。フランス料理店で働いていた頃はフランス料理の枠の中でできることが限られていましたが、今はすごく自由にパンづくりを楽しんでいます」
口コミからSNSなどで徐々にお客さんが増え、今では何度も訪れるリピーターやカゴいっぱいに買っていく人の姿も。すっかりまちの風景になりました。
また、岡山観光WEBで発表された「岡山県民おすすめ「岡山のいちおしパン屋」13選」に選出。さらにオンラインパンサイト「rebake」の AWARD 2023 にて、なんとPUBLICが『みんなの投票部門』で1位に選ばれる快挙を達成。岡山はもとより、全国で愛されるベーカリーになりました。
金谷さん「ひとりひとり好みが違うからこそ、たくさんの種類の中からお気に入りのパンを見つけてもらえるよう日々いろんなパンをつくっています。『なにを食べてもおいしい』と言ってもらえることもうれしいですし、日々、浮かんできたアイデアを小さなパンに込めて、みなさんによろこんでもらえるのが一番のやりがいです」
「誰がいつ訪れても“ワクワク”があるベーカリーでありたい」と話す金谷さん。「PUBLICのパンがあると朝起きるのが楽しみになる」「満足感のあるパンランチが手軽に食べられる」。みんなが日常を送る場所にワクワクするベーカリーがあることでまちのひとのライフスタイルを豊かにし、「おいしいパンがある日常」をつくり出しています。
HITPLUS担当者のコメント
早いものでPUBLICがオープンしてから4年が経とうとしています。「料理×パン」を貪欲に追求し、美味しさのためなら手間隙を惜しまないその姿勢から生み出されるパンはありがたいことに岡山だけではなく全国のファンに楽しんでいただけるようになりました。
日々SNSなどを通じてPUBLICに並ぶ商品の紹介はしていますが、金谷シェフのルーツや思いについてはあまり表に出ない部分です。今回のコラムでPUBLICのパンたちが生まれる一端が垣間見えたのではないでしょうか?私も初めて聞く話があり興味深く拝見しました。ファンの皆様にもPUBLICのこだわりの源泉がお届けできて嬉しく思います。
PUBLICはこだわりのパン作りをするシェフの思いと「ひととまちをつなぐ」HITPLUSの思いの両輪で動いています。今回のコラムではその片方をお届けできました。次回以降で不動産屋であるHITPLUSがベーカリーを運営するに至った経緯などをお届け出来ればと思いますので続編に期待ください!(田上)
店舗詳細 PUBLIC
住所 : 岡山市北区錦町8-19
営業 : 8:00〜15:00(キャッシュレス決済のみ)
定休日: 火、水 最新情報は公式インスタグラムをご確認ください。