2023.11.14
COLUMN
コラム
ワールドキッチン実行委員長岡田栞那さん
「HITPLUS」は「好きなことで、まちに飛び込もう!」をコンセプトに、個性を発揮してまちに飛び込むひとを応援する会社です。そんなHITPLUSに、「グローバル」と「ローカル」の2つの「好き」で岡山のまちづくりに参加する大学生がいます。
岡田栞那さんは岡山大学の世界中から集まる留学生、帰国生などと英語を共通言語として一緒に学ぶ国際プログラム「グローバル・ディスカバリー・プログラム」に通う大学2年生。愛媛県松山市の中島で生まれ育ち、大学進学をきっかけに岡山市で暮らし始めました。
現在は世界のおいしい料理やステージパフォーマンスが楽しめる多文化交流フードイベント「The World Kitchen」(以下ワールドキッチン)の実行委員長を務めています。
岡田さんはどうして岡山のまちづくりに携わることになったのでしょうか。今回は、HITPLUSからまちへ飛び込んだ「ひと」に焦点をあてて紹介します。
登場人物プロフィール 岡田栞那(おかだかんな)さん
多文化交流イベント「ワールドキッチン」実行委員長。愛媛県松山市中島出身。2022年4月に岡山大学グローバル・ディスカバリー・プログラムへ入学し、岡山市へ。個人として「ワールドキッチン」の実行委員長を務めるほか、不動産屋「HITPLUS」のアルバイトとしてHITPLUS主催のマルシェなどの運営に携わる。
幼少期から家に外国人がいる環境
愛媛県松山市の南西に位置する人口約2,000人の離島・中島で生まれ育った岡田さん。島に生まれながら、グローバルな環境で過ごしたことが岡田さんの生きかたに大きな影響を与えました。
岡田さん「有機農業を営む両親がアジア圏から技術研修生をホストファミリーとして受け入れていまして、小さい頃から1年に1カ月ほど彼らと一緒に生活していました。
彼らとコミュニケーションを取る中で、留学生の中には、生まれたばかりの子どもを国に置いてきているひとや、カースト制度などの文化による理由で世界には農業を学びたくても叶えられないひとが多くいることを知りました。
それでも「優れた技術を持って帰りたい」と国を代表して留学にくる彼らから強い覚悟を感じ、私も自分の故郷や誰かのために行動し、貢献できる人になりたいと思いました」
中校生のときにモンゴルを訪問した際、経済格差を目の当たりにしたことも忘れられない経験になったのだそう。
岡田さん「私はモンゴルの中で最も栄える首都・ウランバートルのホテルに宿泊しました。その部屋の窓からは、遊牧民が使う移動式住居・ゲルで暮らすひとたちのスラム化したエリアが見えたんです。自分と異なる文化で生活する人たちを見て、自分もいまの環境で一生懸命生きなければという使命感にかられました」
自分には何ができるのか。そんな問いを抱いた岡田さんは国際協力に興味を持ち、漠然と「世界を変えたい」と思うように。さらに、中学生3年生のときに学校の授業の一環で地域活性化のイベントを企画したことや、高校時代に島外の学校に通学したことで改めて島の良さを実感し、「島に何か還元したい」と考えるようになります。
そんなとき、岡田さんは母からあるアドバイスを受けます。
岡田さん「私の思いを知った母が『シンクグローバリー・アクトローカリー(地球規模で考え、足元から行動せよ)』という言葉を教えてくれたんです。それまでは、国際協力とまちづくりのどちらかを選ばなきゃいけないと思っていましたが、この言葉がきっかけで二つを掛け合わせられると気づくことができました。
世界を変えたいならまずは自分の周りでできることを探そうと、高校時代は外国人技能実習生にインタビューをしたり島の柑橘類を使って特産品づくりを行ったりと身近なアクションを続けてきました」
こうして岡田さんは、国際協力とまちづくりを掛け合わせ、島に多くの技能実習生や特定技能生を受け入れる体制をつくり、キャリア支援を行う事業を起こしたいと考えはじめます。
まちづくりプレイヤーとの運命的な出会い
大学ではNPOのマネジメントや貧困や環境問題など社会問題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」を専門に学んでいる岡田さん。故郷でやりたい事業はあるものの、大学入学後は、岡山と島の物理的距離や、学生という時間的制約の中で思うようにアクションできない日々が続いていました。
そんなとき「HITPLUS」代表の打谷との出会いが岡田さんの大学生活を一変させます。
岡田さん「2022年7月に参加した『岡山城主要部跡地ワークショップ』で打谷さんと偶然お会いしました。自分のやりたいことを真摯に聞いてくださって応援してくれたのが印象的でした。
また、『同じまちづくりのプレイヤーとして一緒に面白いことをやっていきたい』と言ってくれて。それまで学生と大人の間には大きなギャップがあると思っていたので、同じ目線で声をかけてくれたのがすごくうれしかったです」
この出会いがきっかけで岡田さんは、多文化交流を目的としたイベント「ワールドキッチン」を主催することになります。
岡田さん「打谷さんと2回目にお会いしたとき、打谷さんが7年前に開催した『ワールドキッチン』を復活させたいというお話をいただきました。グローバルといった興味がある分野でまちづくりに参加できるのは自分の将来に役立つかもしれない。このチャンスを絶対に逃したくないと思い、ワールドキッチンの運営に携わることになりました」
多様な価値観に触れられるワールドキッチン
ワールドキッチンの運営メンバーは、全員が岡山大学グローバル・ディスカバリー・プログラムに所属する大学生。実行委員長の岡田さんは、仲間集めからコンテンツづくり、当日の運営まで全てを統括するポジションを担います。
2022年11月にはじめて主催したワールドキッチンでは、実行委員長として苦労することも多かったのだそう。
岡田さん「特に難しかったのが、同世代のメンバーをまとめることでした。最初は私のやりたいことをみんなが手伝っている状態で、全員が同じ熱量でひとつのイベントを作り上げるのが難しかったです。仲の良かった友達と険悪になり、ストレスで『もう辞めたい』と思ったときもあります(笑)」
それでも実行委員長としてイベントを成功させようと、HITPLUSにサポートしてもらいながら準備に全力を注いできました。
岡田さん「HITPLUSのみなさんには私たちをサポートする社会人プロボノチームを作ってもらい、協賛企業への交渉に同行してくださったり、広報メンバーへプレスリリースの書き方をイチから教えてくださったりと、ワールドキッチンの運営業務をバックアップしていただきました。自分たちで悩み、考え、学生主体で意思決定できたのも、岡山のまちに詳しいプロボノチームのみなさんが陰で支えてくださったからです。
私は、様々な大人とやりとりする立場を任せてもらえて、みんなの意見をまとめる調整力がつきました。行政、学生、まちの人、立場が異なるとそれぞれ求めることが違うので、みんなが納得する落とし所を見つけることも学びのひとつです」
イベント当日は、岡田さんやメンバーのモチベーションを高める機会になったといいます。
岡田さん「ワールドキッチンという場がなければ交わることがない留学生や地域の子どもたちが交流し、お互いの価値観を刺激しあってる様子を見て、このイベントが開催できて心からよかったと思いました。
何が正解なのかわからず手探りで準備を進めてきましたが、当日の様子を見て、メンバーの中で目指すべき共通認識を持つことができました。今は積極的にアイデアを出すメンバーも増えて、私のやりたいことだったワールドキッチンが、みんなのやりたいことへと変わってきているように感じます」
第1回の開催を経て、もともと岡田さん主体で動いていた組織の視座が高まり、メンバー一人ひとりが主体的に行動するようになりました。現在は2023年11月18日(土)、19日(日)に開催される2回目のワールドキッチンに向けて準備を行っています。
岡田さん「今年は、旭川河川敷広場へと場所を移して開催します。おいしい世界の料理はもちろん、いろいろな国の食文化を知ることができるパネルや海外の人と交流できるブースなど、多様な価値観に触れられるコンテンツを用意しています。普段は交わらないひととのコミュニケーションを通じて異文化交流を楽しんでみてください」
岡山のまちにダイブして学んだ、手触り感のあるまちづくり
岡田さんはワールドキッチンの主催に加えて、2023年4月からHITPLUSのアルバイトとしても働いています。HITPLUSの業務では主にHITPLUS主催のマルシェなどの運営を手伝っているそう。
まちにダイブする前と後では、まちの見え方が180度変わったのだとか。
岡田さん「HITPLUSで働きはじめたことがきっかけで岡山の面白いひととたくさん繋がることができて、日々の暮らしが楽しくなりました。大学に入学したばかりの頃はどこか他人事のように捉えていた岡山のまちを、いまでは愛着が芽生えた<自分のまち>だといえます。
『あそこの公園は今度から整備が始まるんだ』など、まちの些細な変化にも気づくようになり、自分の視点でまちを捉えられるようになったのもあのときまちに飛び込むきっかけを与えてくれた打谷さんのおかげです」
自分の好きなことを表現している飲食店の方と関わり、その人たちが集まることで生まれる新しいプロジェクトなどを見てきた岡田さんは、自身の中にも大きな変化があったといいます。
岡田さん「ワールドキッチンでの成功体験を得て、小さくても成果が実感できる<手触り感のあるまちづくり>が自分にはあっていると感じました。<世界を変えたい>という漠然とした夢が具体的になり、手触り感のあるものへと変わりつつあります。
また、岡山でもともと島にいた頃からやりたいと思っていたグローバル×ローカルのまちづくりが実践できて、その楽しさと可能性を実感しました。この経験を活かし、島でも2つの視点で事業を行っていきたいです」
目を輝かせて将来の展望を語る岡田さんは、10月から大学を休学。岡山での学びを活かし、かねてから思い描いていた故郷の島での留学生のキャリア支援事業に本格的に取り組んでいきたいと話します。
興味があることにアクティブに取り組む原動力はどこからきているのでしょうか。
岡田さん「人生後悔したくないという思いが強く、あるとき勇気を持って一歩を踏み出してみたら、敷かれたレールではなくてちゃんと自分の足で自分の人生を歩いている感覚が生まれました。そのとき、自分から行動しないと何も変わらないと実感し、楽しそうと思うことにはほとんど挑戦してきました。
その回数を重ねているうちに、自分がやりたいこともどんどん明確になっていきました。だから、もしいまやりたいことが見つかっていないというひとも、とりあえず行動してみたら何かが変わると思うんです」
世界を変えたいなら、自分の周りから行動せよ。「シンクグローバリー・アクトローカリー」の教えを実践し、生まれ育った島に還元する生き方を模索する岡田さん。<自分には何ができるのか>という問いの答えを探す物語はこれからも続きます。
ヒットプラス担当者コメント
岡田さんとワークショップで出会った時、直感的に「仲間になれる!」と思いました。彼女には「グローバル×ローカル」「地元・中島」というやりたいことと場所があり、そのために今の自分に何ができるかを探そうとしていました。あとは、事業としての実践経験の第一歩を踏み出すだけ。そのサポートとして、岡山のまちにたくさんある課題と、岡田さんの視点がつながることを一緒に探したいと思い、具体的に事業としてのワールドキッチンを提案しました。
まちづくりに正解はありません。ですが、大前提として「自分の生活をちゃんと楽しむ」ことが必要です。まちのひとが暮らしを楽しみ、その様子が外に伝わって新しい仲間を呼び寄せる「循環」が、結果としてまちづくりになるのだと思っています。まず自分がしっかり楽しむこと。そのうえで、新しいひとと新しい視点が登場し関わることが大切で、とくに岡田さんのような新しい視点もパワーも備えている若い世代のマチナカチャレンジ、大歓迎です。
ちなみに、僕たちは過剰なサポートはしません。経験則から失敗が見えていても止めません。自分自身で前向きなチャレンジと小さな失敗を積み重ね、改善し続けることだけが、結果的に事業を発展させると思っているので、答えのようなものも出しません。(もちろん、致命傷になりそうな時や変な大人と関わりそうな時は止めますが・・・笑)
「事業」としてきちんとつづいた結果、より多くの人に参加してもらえるものになるよう、僕たちは適度な距離感からサポートします。岡山というフィールドを使って自分の好きなことを表現したい学生の皆さん、お互いに視点とスキルを交換し合える仲間にりましょう!(打谷)